「M&A」のメリット・デメリット買い手、売り手の場合で解説!
M&Aとは
M&Aとは、「Mergers(合併)」と「 Acquisitions(買収)」の頭文字をあわせた言葉で、一般的には合併・買収による企業(事業・経営権)の取得・譲渡を指します。
広い意味では、経営権の完全な取得・譲渡には至らない資本提携(資本参加)や、技術・生産・販売などにおける企業間の協力(業務提携)を含める場合もあります。
M&Aの目的
M&Aの買い手は、売り手企業がこれまでに築いてきた顧客や取引先との関係、販売網、技術などを取り入れることができます。これによって事業の立ち上げ成長させるまでにかかる「時間」や「労力」省き、事業の成長を一気に加速できるメリットがあります。
新規事業への参入や事業の多角化をめざす場合も、一から事業を立ち上げるのに比べ、既存の企業を買収したほうがコストや時間がかからず、リスクも大きく軽減できます。
M&Aの売り手は、事業承継や後継者問題の解消や、事業を売却による利益(創業者利益)を獲得する方法としてM&Aを活用できます。
M&Aの手法(スキーム)
M&Aは狭義に「合併」「買収」をいい、広義には「合弁会社の設立」や「資本参加」、「業務提携」まで含みます。具体的には、下図のような手法が用いられます。
M&A 買い手のメリット
M&Aの買い手には、次のようなメリットが期待できます。
メリット1 既存事業の拡大・強化を図れる
買い手は売り手企業が保有する不動産(店舗・工場など)や設備など有形資産のほか、技術やノウハウ、顧客、取引先、販売網などの無形資産、人材など多くの経営資源を獲得でき、既存事業の拡大・強化を図ることができるメリットがあります。
売り手企業が築いた取引先やマーケット、ネットワークをそのまま活かせる点は大きなメリットであり、新規開拓にかかるコストや労力を抑えながら、事業を一気に拡大できます。
メリット2 事業の多角化を図れる
事業の多角化は、複数の収益源を確保し、事業の相乗効果によって企業の安定的な発展を実現させる重要な成長戦略のひとつです。
M&Aの買い手は、実績のある異業種企業・事業を自社に取り込むことで、新たに会社・事業を立ち上げるよりもコストや労力、リスクを抑えられるメリットがあります。
例えばECサイト「楽天市場」からスタートした「楽天」は、M&Aによりネット事業を軸として事業を多角化し、楽天経済圏とも呼ばれる一大経済圏を築きあげています。今や同社の収益の柱となっている「楽天カード」や「楽天銀行」、「楽天証券」といった金融子会社も、もとはM&Aにより買収した会社が起源です。
メリット3 リスクを抑えながら新規事業・新規エリアへ参入できる
新規事業への参入や新規エリアへの進出には、リスクを伴います。実績のある既存企業をM&Aにより取り込めば、このリスクを軽減できます。
ベンチャー企業で生み出された斬新な事業を大企業が買収、資金力とネットワークを活かして大規模に展開し、大きな事業へと成長させるケースも多くみられます。
メリット4 事業の効率化を図れる(スケールメリット・コスト削減効果)
M&Aにより事業規模が大きくなれば、スケールメリットによって生産・仕入れ・販売などのコスト削減効果を期待でき、事業の効率化を図れるメリットがあります。
M&A 売り手のメリット
M&Aの売り手には、次のようなメリットが期待できます。
メリット1 後継者問題を解決できる
後継者問題は、中小・零細企業のオーナー経営者の多くが抱える問題です。M&Aはその根本的な解決策となります。
親族や自社内に後継者がいない場合、M&Aを利用して信頼できる他社に経営を引き継げば、顧客や取引先との関係、従業員の雇用を守りながら、自身が築き上げた事業や培った技術を存続できます。
メリット2 事業の継続とさらなる発展を図れる
資金力などの問題により自社だけでは事業の継続が難しい、あるいは事業の拡大に時間を要してしまうといった場合、M&Aで資金力や影響力の大きな企業の傘下に入り、支援を受けて事業の発展を図るのも有効な戦略です。
傘下に入ればオーナー経営者の影響力は低下しますが、製品やサービスをより早く、広く普及させられるといったメリットが期待できます。
また主力事業に注力するため、不採算事業を分割し、同事業を展開する競合他社などに売却する方法もあります。
メリット3 従業員の雇用を維持できる
従業員の雇用を守ることは経営者の重要な役割です。経営者の引退後も事業が継続し、従業員の雇用が維持される点はM&Aのメリットといえます。
従業員の処遇については、M&Aの条件次第ですが、中小企業のM&Aでは、一定期間の雇用継続や雇用条件の維持などが条件として盛り込まれるケースが一般的です。
大企業や優良企業によるM&Aでは、従業員の活躍の場が広がったり、福利厚生が充実するなどのメリットが得られるケースもあります。
メリット4 創業者利益を獲得できる
M&Aにより事業を譲渡する際に売り手に支払われる対価には、将来の利益や成長を評価した「のれん」が上乗せされるケースが一般的です。
創業者は将来的な利益を含んだ創業者利益を早期に得られ、引退後の生活資金としたり、新たな事業資金に充てたりできます。
ベンチャー事業を立ち上げ、軌道に乗ったところで他社に売却、その資金を元に新たな事業を立ち上げることを繰り返す起業家は、連続起業家(シリアルアントプレナー)と呼ばれます。
メリット5 廃業コストを削減できる
会社を廃業するには、設備や在庫の処分費用や会社の清算費用、従業員を解雇する場合の補償など、様々なコストがかかります。
オーナー経営者は会社の債務の連帯保証人となっているケースも多く、廃業に伴い会社財産では返済しきれない負債が残れば、経営者個人の資産から返済しなければなりません。
廃業ではなくM&Aによる事業譲渡を選択すれば廃業コストを削減でき、会社の負債も買い手企業が引き継ぐため、経営者は個人保証や担保も解消されます。
M&A 買い手のデメリット(注意点)
M&Aの買い手には、次のようなデメリットが想定されます。
デメリット1 想定していた収益、相乗効果(シナジー)が得られない
M&Aの成否は、実際にM&Aしてみなければ分かりません。当然何らかのメリットを見込んで行うはずですが、期待した収益や相乗効果が得られないこともあります。
デメリット2 組織がうまくなじまない
企業文化や待遇の異なる会社がひとつになることで、派閥争いのような対立が起きたり、システムや業務プロセスがうまく統合できず、組織が十分に機能しなくなってしまうことがあります。
デメリット3 人材の流失
組織の統合がうまくいかず、派閥争いによる対立や人間関係の悪化、労働条件の変更などにより、せっかく獲得した優秀な人材が外部に流失ししまうリスクもあります。特に中小企業の価値は人によるところも大きく、優秀な人材が抜けてしまうと大きな痛手となりかねません。
会社の方針・ビジョンを伝え、理解を求めるとともに、従業員の意見を尊重し、働きやすい環境・体制づくりを心がけることが大切です。
デメリット4 簿外債務や偶発債務の発生
M&A後に、貸借対照表上に記載されていない「簿外債務」や、訴訟などにより発生するおそれのある「偶発債務」が発生し、トラブルとなるリスクがあります。
M&Aの最終的な判断は、公認会計士や弁護士など専門家による財務状態や訴訟リスクの有無などに関する入念に調査(デュー・デリジェンス)をもとに、把握できるリスクは極力把握した上で慎重に行いましょう。不確定要素が残る場合には、買収価格の調整や契約条件に補償条項を盛り込むなどの対策や、M&Aを見送る判断も必要です。
M&A 売り手のデメリット(注意点)
M&Aの売り手には、次のようなデメリットが想定されます。
デメリット1 希望する条件で買い手が見つからない
M&Aは買い手との合意があって成立するものであり、希望する条件ではM&Aに応じてくれる買い手が見つからないこともあります。
買い手を見つけるには、多くの企業とつながりを持つ税理士や金融機関、M&A仲介業者などに相談する方法が一般的です。中小企業基盤整備機構では、「事業承継・引継ぎ支援センター」を全国47都道府県に設置しており、専門家がM&Aをはじめ、事業承継・引継ぎに関する助言や情報提供、マッチング支援を無料で行っています。
デメリット2 組織がうまくなじまない
売り手側においても、組織がうまくなじまず、十分に機能しなかったり、トラブルが発生したりすることがあります。
デメリット3 雇用・労働条件の変更
M&A後に従業員の雇用条件や労働条件、業務内容が変更されるケースもあります。会社の方針としてやむを得ないとしても、その程度によっては従業員の士気の低下や離職につながるおそれがあります。
従業員の処遇については交渉段階で十分に取り決め、条件に盛り込んでおきたい部分です。
デメリット4 取引先との関係悪化
経営者や担当者個人の信頼関係が要となっていた場合、M&Aにより経営者の交代や担当者の変更があると、取引先との関係が悪化する恐れがあります。
場合によっては、関係が構築できるまでの間、売り手側の代表者が事業へ関与を続けるといった条件が盛り込まれるケースもあります。
M&Aを成功させるポイント
M&Aを成功させるため、特に押さえておきたいポイントは次の5つです。
ポイント1 目的を明確に定める
買い手であれば事業の拡大・強化、売り手であれば事業承継や創業者利益の獲得など、まずはM&Aの目的を定めます。買い手は買収したい企業・事業の内容、売り手は譲渡希望価格や譲渡条件の優先順位などを明確にしておきましょう。
M&Aは、あくまで事業戦略や事業承継のひとつの方法です。目的に照らしてM&Aが最善の方法であるか、他の選択肢と比較した上で判断すべきです。
ポイント2 買収・売却についてサポートを受ける
M&Aの成功は、買い手と売り手のマッチングの成否がカギを握ります。これには判断材料となる情報やネットワークを持つ仲介者・アドバイザーに相談し、助言や協力を仰ぐことがポイントです。M&Aは準備から交渉、契約締結まで、慣れない手続きが多く、適切なサポートがなければ実行は難しいといえます。
相談先としては、税理士や弁護士、金融機関、M&A仲介業者、事業承継・引継ぎ支援センターなどが候補となります。自社にあった相談先を見つけるため、なるべく複数に相談し検討するとよいでしょう。
ポイント3 自社の状況を正確に把握し、改善できる問題は解消しておく
買い手は、どんな企業や事業であれ自社の事業との相乗効果を発揮できるか、弱みを補い強化できるのかを明確にするため、自社の状況を分析し、正確に把握することが必要といえます。
売り手は、自社の強みや課題、財務状況、収益性、独自の技術などの状況を把握し整理しておきましょう。買い手にアプローチする際にアピールしやすくなり、提示する譲渡価格の裏付けともなります。状況を把握する過程で、過剰な借入れや株主が分散しているなど、改善余地のある問題が見つかった場合には、あらかじめ改善しておきましょう。交渉に有利に働く可能性が高まります。
ポイント4 デューデリジェンスを十分に行う
買い手は、買収価格が適正であるか、訴訟リスクなどがないか、税理士や公認会計士、弁護士などの専門家と連携して詳細な調査を行う必要があります。
懸念事項が見つかった場合には、売り手側に問題解消を求めたり、買収価格の引き下げやトラブルが発生した場合の対応、補償について契約条件に盛り込むなどして、リスクに備えます。場合によってはM&A自体を見送る判断も必要です。
調査を受ける売り手は、正確な情報を提供し、誠意をもって対応することが大切です。自社に不利な事実だからと伝えなかったり、隠すようなことはしてはいけません。M&Aでは信頼関係がなにより重要であることを肝に銘じておきましょう。
ポイント5 情報が外部に漏れないようにする
準備段階でM&Aを検討していることが外部に漏れてしまうと、案件自体が消滅してしまうおそれがあります。公表前には、仲介者や経営者、経営幹部など、情報は限られた人間以外に漏らさないよう、十分に気をつけなければなりません。
とはいえ、M&Aは取引先や金融機関、従業員、顧客などにとっても重要な問題です。適切な時期にはしっかりと情報を共有し、説明を行い、理解と協力を得ることもM&Aの成功には不可欠です。
まとめ
M&Aは、多くのメリットがある反面、デメリットやリスクも数多く存在しています。
しかしながら、企業が成長して行くためには非常に重要な経営戦略の一つであることには変わりありません。買い手のニーズと売り手がニーズが合致すれば、M&Aは双方にとってメリットをもたらすものです。その一方で様々なリスクもあり、入念な準備と慎重な判断が求められます。
今後も引き続き様々な業種、業界でM&Aが展開されていくことになるでしょう。
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