「保険の所得控除制度」について!対象・種類・限度額などをおさえて負担を軽くしよう!
保険の所得控除制度とは?
まずは所得控除とはどんなものであるかと、所得控除の1つである生命保険料控除とはどんな仕組みであるかについて説明します。
所得控除とは
所得控除とは、課税所得を計算する過程で、個人的な事情を加味して所得金額から一定額を差し引く制度です。
所得税や住民税は、働いて得た収入に対してそのままかかるわけではありません。まず必要経費を差し引き、さらに所得控除を差し引いた「課税所得金額」に対してかかります。所得控除の目的は、個々の事情によって税負担を勘案することです。
世の中には健康な人もいれば病気がちの人もいます。また、独身者もいれば家族を養っている人もいるでしょう。生活状況にこのような違いがある中、一律の税金だとしたら負担の度合いに差が生じます。それを調整するため、所得控除の制度があるのです。
生命保険料控除の仕組み
所得控除にはさまざまな種類があります。その中でも生命保険料控除とは、生命保険契約等の保険料を支払っている人が受けられる所得控除です。ここでいう「生命保険契約等」には、生命保険契約はもちろん、旧簡易生命保険契約、生命共済契約に加え、一部の損害保険契約も含まれます。
公益財団法人生命保険文化センターの「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」によると、生命保険(個人年金保険を含む)の世帯加入率は88.7%で、世帯年間払込保険料の平均は38.2万円でした。多くの世帯が、月に約3.2万円の保険料を支払っています。
民間保険に加入して自助努力をしている人とそうでない人との税負担を公正にするために、生命保険料控除が設けられているのです。
生命保険料控除の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までの1年間に、実際に支払った保険料です。支払った保険料のうち、決められた計算方法によって算出される額が、契約者(保険料負担者)のその年の所得から差し引かれます。
ただし、この所得控除の額だけ、税金がそのまま減るというわけではありません。所得税や住民税は、課税所得金額によって算出されます。所得控除によって課税所得金額が少なくなることで、税金の還付または減免が受けられるのです。
新契約と旧契約で所得控除額が異なる
税制改正により、2012(平成24)年度の所得税および2013(平成25)年度の住民税から、新しい生命保険料控除制度が適用されています。新制度では「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」に加え、「介護医療保険料控除」といった区分が新設されました。
改正後も旧制度はそのまま継続され、2012年1月1日以降に契約した生命保険契約等を「新契約」、それより前に契約したものを「旧契約」とよびます。新契約と旧契約では控除の種類や計算方法が異なるため、たとえ同じ保険料の契約でも控除される額が異なります。
新契約と旧契約の保険始期
新契約 | 契約始期が2012年1月1日以後である契約 |
旧契約 | 契約始期が2011年12月31日以前である契約 |
保険の所得控除制度の対象
生命保険料控除の区分には、「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つがあり、別個に適用することができます。それぞれの保険契約の種類ごとに、特徴を解説します。
なお、支払った保険料や掛金が生命保険料控除の対象となるには、保険金等の受取人のすべてが払込者本人または配偶者、その他の親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)であることが必要です(個人年金保険料については、その他の親族は対象外)。
一般生命保険料控除
一般生命保険料控除の対象となるのは、「生存または死亡に起因して一定額の保険金が支払われる保険契約等」の保険料です。具体的には、定期保険や終身保険、養老保険、学資保険の保険料などが該当します。
また、旧契約の医療保険やがん保険、所得補償保険、介護保険も、一般生命保険料控除の対象となります。
介護医療保険料控除
介護医療保険料控除の対象となるのは、新契約の「疾病または身体の傷害等により保険金・給付金が支払われる保険契約等」の保険料です。ただし、身体の障害のみに起因して保険金を支払うものは除き、入院・通院等に伴う給付に係る保険料に限ります。
具体的には、医療保険やがん保険、所得補償保険、介護保険などが該当します。
介護医療保険料控除は、2012年1月1日に生命保険料控除の1種類として新たに追加されました。そのため、2011年12月31日までに締結した契約は、一般生命保険料控除の対象となります。
個人年金保険料控除
個人年金保険料控除の対象となるのは、次のすべての条件(個人年金保険料税制適格)を満たす契約の保険料です。なお、個人年金保険でこれらの条件を満たしていない場合や「変額個人年金保険」は、一般生命保険料控除の対象になります。
個人年金保険料税制適格
- 年金受取人が払込者本人またはその配偶者で、かつ被保険者と同一人であること
- 保険料の払込期間が10年以上であること(一時払いは対象外)
- 年金受取開始が60歳以降で、かつ受取期間が10年以上であること、または終身の年金であること
「生命保険料控除証明書」を確認する
支払った生命保険料が所得控除の対象となるかどうかについては、毎年10月以降に保険会社などから送られてくる「生命保険料控除証明書」によって確認することができます。ほとんどの場合、申告額として1年間の払込金額も証明書に記載されています。
なお、加入している契約が上記の区分のいずれに該当するかは、契約の名称だけでは判断できません。保障内容によって異なるため、必ず生命保険会社等に確認しましょう。または「生命保険料控除証明書」にも記載があります。
保険の所得控除額の計算方法
保険契約等の始期が制度の改正以後であるかどうかによって、控除額の計算方法が異なります。また、生命保険料控除の手続きをすることで、所得税の還付だけでなく翌年の住民税における減免も受けられます。それぞれの計算方法を解説します。
新契約での控除額
新契約に基づく一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の控除額は、それぞれ次の計算方法に当てはめて計算した金額です。
所得税 | 住民税 | ||
年間の支払保険料等 | 控除額 | 年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 | 12,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 | 12,000円超 32,000円以下 | 支払保険料等 ×1/2+6,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 | 32,000円超 56,000円以下 | 支払保険料等 ×1/4+14,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 | 56,000円超 | 一律28,000円 |
旧契約での控除額
旧契約に基づく一般生命保険料と個人年金保険料の控除額は、それぞれ次の計算方法に当てはめて計算した金額です。
所得税 | 住民税 | ||
年間の支払保険料等 | 控除額 | 年間の支払保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 | 15,000円以下 | 支払保険料等の金額 |
25,000円超 50,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 | 15,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等 ×1/2+7,500円 |
50,000円超 100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 | 40,000円超 70,000円以下 | 支払保険料等 ×1/4+17,500円 |
100,000円超 | 一律50,000円 | 70,000円超 | 一律35,000円 |
控除額を計算するときの注意点
表中にある「支払保険料等」とは、その年に支払った保険料の合計額から、その年に受けた剰余金や割戻金を差し引いた金額をいいます。その年内に払込期日が到来した保険料であっても、実際に支払っていないものは含まれません。
また、特約がついている場合など、複数の種類の保障内容が1つの契約で締結されている保険契約等については、主たる保障内容(主契約)の区分に応じ、その全額を控除適用します。
なお、旧制度の対象となっていた生命保険契約等でも、2012年以後に更新、転換、特約の中途付加等をした場合、更新した月以後はその契約全体の保険料が新制度の対象となるので注意しましょう。
保険の所得控除額の限度額
保険料の区分ごとに、所得控除できる限度額が定められています。限度額は、新契約であるか旧契約であるかによっても異なります。
新契約での控除限度額
新契約に基づく一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の控除限度額は、下表のとおりです。なお、住民税における所得控除限度額はそれぞれ2.8万円ですが、合計で7万円の限度額が定められています。
所得税 | 住民税 | ||
全体の控除限度額 | 12万円 | 7万円 | |
一般生命保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 | |
介護医療保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 | |
個人年金保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
旧契約での控除限度額
旧契約に基づく一般生命保険料、個人年金保険料の控除限度額は、下表のとおりです。合計額では新契約の控除限度額を上回ることはありませんが、区分ごとの限度額は新契約より多く設定されています。
所得税 | 住民税 | ||
全体の控除限度額 | 10万円 | 7万円 | |
一般生命保険料控除 | 5万円 | 3.5万円 | |
個人年金保険料控除 | 5万円 | 3.5万円 |
新旧契約が双方混在するときの控除限度額
新旧契約が混在し、双方の支払保険料について控除適用を受ける場合には、旧契約と新契約をそれぞれ計算して合計します。なお、旧契約の保険契約等のみを計算した方が控除限度額が多くなる(4万円を超える)場合には、旧契約で計算した金額を控除限度額とします。
例えば、新契約の一般生命保険料を4万円、旧契約の一般生命保険料を10万円支払っている場合には、旧契約の計算方法を使った方が控除額が大きくなります。その場合の所得税・住民税における所得控除額は以下のとおりです。
(例)新契約の一般生命保険料を4万円、旧契約の一般生命保険料を10万円支払っている場合
- 所得税における所得控除額:支払保険料等(10万円)×1/4+25,000円=50,000円
- 住民税における所得控除額:35,000円
また、「一般生命保険料控除」・「個人年金保険料控除」では、それぞれの区分ごとに旧契約のみで申告するか、新契約のみで申告するか、それとも両方で申告するかを選択することができます。
例えば、一般生命保険料控除については旧契約で申告、個人年金保険料控除については新契約で申告、といった選択が可能です。 ただし、この場合でも全体の控除限度額は、所得税で12万円、住民税で7万円です。
保険の所得控除制度の申請方法
所得税における生命保険料控除の申請方法は、以下のとおりです。所得税で手続きをしていれば、住民税の手続きを行う必要はありません。
会社員など給与所得者の場合
給与所得者は「給与所得者の保険料控除申告書」に控除額を記入し、その年最後の給与の支払いを受ける前に勤務先に提出して年末調整で控除を受けます。なお、12月給与の後に賞与が支給される場合は、賞与支払いの際に年末調整を行っても差し支えないとされています。
保険料控除申告書には、生命保険会社等が発行する「生命保険料控除証明書」を添付します。ただし、勤務先の団体保険など給与天引きにより保険料を払い込んでいる場合は、証明書の添付は不要です。
給与の年間収入額が2,000万円を超えてしまったり、年末調整に控除の申請が間に合わなかったりした場合は、確定申告で控除を受けます。その場合は、確定申告書に生命保険料控除証明書を添付します。
個人事業主の場合
個人事業主の場合は、その年の所得について翌年2月16日から3月15日までの間に所得税の確定申告をします。
確定申告で控除を受ける場合には、確定申告書の生命保険料控除の欄に記入した上で、生命保険料控除証明書または電子発行された証明書を添付します。ただし、旧契約で年間保険料が9,000円以下のものは、添付する必要がありません。
生命保険料控除証明書は、毎年10月以降に保険会社から送られてきます。万が一、生命保険料控除証明書を紛失してしまった場合は、生命保険会社に連絡することで再発行を受けることができます。
医療保険や個人年金保険も対象になる
上述の通り、「生命保険料控除」はその名の通り生命保険料が控除対象になる種類の所得控除です。一般の生命保険料だけでなく、医療保険や介護保険、個人年金保険も控除の対象となります。保険契約または共済契約であれば幅広く対象となるのがこの制度の強みです。
しかし、すべての種類の生命保険となるわけではありません。ここでは、生命保険料控除の対象外となる種類の保険をいくつか紹介します。
生命保険料控除の対象外となる保険
第1に、財形貯蓄契約、財形住宅貯蓄契約、財形年金貯蓄契約に係る生命保険料は対象となりません。これらは勤労者財産形成促進法による税制上の優遇措置を受けることができるため、生命保険料控除の対象にはならないのです。
第2に、保険期間が5年未満の貯蓄保険などは対象になりません。「貯蓄保険」とは、保険期間が3年、5年など比較的短く、貯蓄機能を重視した保険のことです。
第3に、住宅ローンの借入時に加入する団体信用生命保険は対象になりません。これは銀行等が債権保全のために自己を契約者・受取人として契約する保険であり、受取人が「被保険者本人または配偶者、その他の親族」に当てはまらないためです。
まとめ
制度の対象外となる保険も一部ありますが、生命保険料控除はほとんどの保険契約等が対象となります。申請方法も簡単なので、保険に加入している人はぜひ利用してみてください。
自分が加入しようと思っている保険がどの区分に該当するかは、保障内容によって異なります。これから保険に加入する人は、検討している保険会社に問い合わせてみてください。
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