介護保険料はいくら?いつから?仕組みや徴収方法をFPが徹底解説!
介護保険制度の仕組み
介護が必要な高齢者の増加、介護期間の長期化など、介護の必要性は年々高まっています。一方で核家族化や介護する家族の高齢化など、要介護者を支える家族の状況も変化しており、従来の老人福祉・医療制度では対応しきれなくなりました。
そこで導入されたのが高齢者の介護を社会全体で支える、現在の「介護保険制度」です。
基本的な考え方
介護保険制度では、「自立支援」「利用者本位」「社会保険方式」の3つの考え方が基本となっています。
基本的な考え方
- 自立支援…単に身の回りの世話をするだけでなく、高齢者の自立を支援する
- 利用者本位…利用者自身が利用する保健医療・福祉サービスを選べる
- 社会保険方式…給付と負担の関係を明確にし、介護の負担を社会全体で支える
介護保険制度の対象者
介護保険は社会全体で介護負担を支える制度です。「日本に住む40歳以上の人」は原則加入が義務付けられており、保険料を負担しなければなりません。
加入対象者(被保険者)は、65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳以上65歳未満の「第2号被保険者」に区分され、給付を受けられる要件や保険料の金額、徴収方法に違いがあります。
第1号被保険者 | 第2号被保険者 | |
対象者 | 65歳以上の人 | 40歳以上65歳未満の公的医療保険加入者(適用除外者を除く) |
人数 | 3,440万人 ※1 | 4,200万人 ※2 |
受給要件 | ・要介護状態 (寝たきり、認知症などで介護が必要な状態) ・要支援状態 (日常生活に支援が必要な状態) | 末期がん・関節リウマチなど、老化(加齢)に伴う疾病(特定疾病)を原因とする要介護状態・要支援状態 |
要介護・要支援認定者数 (被保険者に占める割合) | 619万人(18.0%) ※1 うち75歳未満:75万人 うち75歳以上:544万人 | 13万人(0.3%) ※1 |
保険料負担 | 市町村が徴収 (原則、年金から天引き) | 医療保険者が医療保険の保険料と一括徴収 |
出所:厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割(平成30年度)」をもとに筆者作成 ※1 2016(平成28)年末現在 ※2 2016(平成28)年度内平均値
医療保険加入者で介護保険の対象とならない人(適用除外者)
次のような人は、40歳以上65歳未満の医療保険加入者であっても届出により保険料の支払いが免除されます。
・海外在住者 ・適用除外施設入所者(障害者支援施設、国立ハンセン病療養所等) ・短期滞在の外国人(在留資格1年未満の人)
介護サービスの内容
介護保険の被保険者である要介護者は「介護サービス(介護給付)」、要支援者は「介護予防サービス(予防給付)」を利用できます。
介護サービス利用者の自己負担額
基本的には、介護サービス費の9割は、介護保険によってカバーされます。また、利用者(要介護者・要支援者)は、原則1割の負担で介護サービスを利用可能です。
ただし、一定以上の所得がある場合は自己負担する金額の割合が大きくなります。
施設サービスを利用した場合の食費や居住費は、原則利用者の負担です。
ただし、市町村民税非課税世帯の利用者については、所得に応じて負担額に上限が設けられており、負担が軽減されます。
自己負担額が高額になったときの軽減措置
月々の介護サービス費の自己負担額には上限が設けられており、上限額を超えた自己負担分については、申請により払い戻しを受けられます。
介護保険制度の財源
介護保険制度の運営に必要な財源は、国・都道府県・市町村の公費が約半分、残りの約半分が第1号被保険者および第2号被保険者の保険料で賄われています。下記の円グラフは、厚生労働省のHPで公開されている情報を基に作成したものです。
国庫負担金(25%)のうち5%は調整交付金です。調整交付金は、各市町村の75歳以上の人数、高齢者の所得分布状況によって減額され、第1号保険料に上乗せされる場合があります。
第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料は?
65歳以上の第1号被保険者の介護保険料は、住所地の市町村が所得に応じて金額を決定し、徴収します。
原則年金から天引きで徴収される
第1号被保険者の介護保険料は、原則年金から天引きされます。
ただし、年金が年額18万円未満の人などは普通徴収の対象となり、口座振替または納付書で個別に支払います。
普通徴収の対象となる人
- 年金年額18万円未満の人
- その年の4月2日以降に65歳となった人
- その年の4月2日以降に他の市町村から転入した人
- 年金を担保に貸付を受けている人 など
どちらの方法で支払うかは法令等で定められており、被保険者が選ぶことはできません。
計算方法
第1号被保険者の介護保険料は、市区町村ごとの計算になります。まずは、第1号被保険者全体の負担額を、介護保険サービスに必要と見込まれる費用の総額から計算します。その後に第1号被保険者全体の負担額を第1号被保険者の人数で割れば、介護保険料が算出可能です。
・介護保険料(基準額)=介護保険サービスに必要な費用×第1号被保険者の負担割合÷第1号被保険者数
実際に支払う介護保険料は、市町村(保険者)ごとの基準額に、本人および住民票上の世帯の課税状況や、本人の前年の合計所得金額などに応じて段階的に定められる保険料率を乗じて計算されます。
保険料率(保険料段階)の設定
介護保険料の計算に用いられる保険料率は、国が定める9段階の標準的な段階設定(下表)をベースに、各市町村(保険者)がそれぞれ条例で定めています。
保険料の目安(大阪市の例)
例えば大阪市では、介護保険料を15段階に区分しています。2021(令和3)年度から2023(令和5)年度分の大阪市の介護保険料は、年額9万7,128円を基準額として次のような設定です。
3年ごとに見直される
第1号被保険者の負担する介護保険料は、介護保険サービスにかかる費用や第1号被保険者数の変化を反映し、3年ごとに見直されます。
市町村によって介護保険料の水準は大きく違う
2021〜2023年度の第1号被保険者の介護保険(基準額)の全国平均は、月額6,014円です。介護サービスの利用の増加に伴って増加が続いています。
また介護保険料の水準は、市町村によっても大きく違います。最も高い東京都青ヶ島村では9,800円、最も安い北海道音威子府(おといねっぷ)村と群馬県草津町では3,300円であり、3倍近くの差があります。
保険料は、介護サービスを利用する高齢者の割合が高い市町村で高くなる傾向があります。老後に移住を検討している人などは、移住先の介護保険料水準も確認しておきたいポイントといえるでしょう。
第2号被保険者(会社員・公務員の場合)の介護保険料は?
健康保険(被用者保険)に加入する会社員や公務員などの介護保険料は、加入する健康保険組合が所得をもとに計算します。
給与から天引きされる
計算された介護保険料は健康保険料とあわせて給与や賞与から天引きされ、勤務先(事業主)を介して健康保険組合が徴収します。
計算方法
介護保険料(介護掛金)は、各個人の「標準報酬月額」「標準賞与額(標準期末手当等の額)」に介護保険料率を乗じて、次のように計算されます。
・毎月の介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率 ・賞与(期末手当)に対する介護保険料=標準賞与額(標準期末手当等の額)×介護保険料率
介護保険料率
介護保険料率は、毎年健康保険組合ごとに定められています。主に中小企業の従業員が加入する「協会けんぽ」の場合、介護保険料率は1.80%(2021(令和3)年度)です。
半分は会社負担
介護保険料のうち半分は会社(事業主)負担となるため、実際には上記で計算した金額の半分が加入者(被保険者)の負担となります。
計算例
例えば協会けんぽに加入する標準報酬月額30万円の人の場合、毎月の介護保険料は次のように計算できます。
・介護保険料(月額)=30万円×1.8%=5,400円 ・被保険者負担額(月額)=5,400円×1/2=2,700円
被扶養者の介護保険料
介護保険には健康保険の「被扶養者」にあたる仕組みはなく、すべての加入者が「被保険者」となります。
40歳以上65歳未満の配偶者や親を扶養している場合、健康保険の被保険者本人も介護保険の第2号被保険者であれば、本人分の介護保険料に被扶養者分の保険料が含まれています。そのため、保険料を別途支払う必要はありません。
介護保険の「特定被保険者」
健康保険の被保険者本人が40歳未満または65歳以上の場合、本人の介護保険料が給与(賞与)から天引きされることはありません(65歳以上の人は個別納付)。
また、第2号被保険者に該当する被扶養者がいれば、加入している健康保険組合によっては介護保険の「特定被保険者」になり、介護保険料が徴収されることがあります。
該当する可能性のある人は、加入する健康保険組合の特定被保険者制度の有無を確認しておきましょう。
例えば「協会けんぽ」には特定被保険者制度がないため、加入者は特定被保険者として介護保険料が徴収されることはありません。
第2号被保険者(自営業や個人事業主の場合)の介護保険料は?
国民健康保険加入者である自営業や個人事業主などの介護保険料は、所得などから住所地の市町村が金額を決定・徴収します。
世帯全員分を世帯主が納付
世帯主は、国民健康保険料とあわせて、介護保険の第2号被保険者に該当する世帯全員分の保険料を住所地の市町村に納付します。
計算方法
介護保険料は、世帯ごとにかかる「平等割」や被保険者ごとにかかる「均等割」、被保険者の前年の所得に応じて決まる「所得割」を合計して計算されます。
・介護保険料=平等割額+均等割額+所得割額
それぞれの金額の水準は、市町村によって異なります。
計算例
例えば大阪市の場合、2021(令和3)年度の国民健康保険加入者の介護保険料は、次のように計算されます。
・介護保険料(年額)=平等割額+均等割額+所得割額(最高限度額17万円) ・平等割額(年額)=1世帯あたり2,509円 ・均等割額(年額)=1万4,612円×介護保険第2号被保険者数 ・所得割額(年額)=算定基礎所得金額(※4)×2.60%
※4 算定基礎所得金額=前年中総所得金額等−43万円(世帯に介護保険第2号被保険者が複数人いる場合は、被保険者ごとに 算定基礎所得金額を計算した合計額)
大阪市在住、世帯に介護保険第2号被保険者が1人、算定基礎所得金額350万円の人の介護保険料は、次のように計算できます。
・介護保険料(年額)=2,509円(平等割)+1万4,612円(均等割)+9万1,000円(所得割額)=10万8,121円
介護保険料が軽減される・免除される場合とは?
保険料の支払いが難しいときには、次のような軽減・減免措置が受けられる場合があります。
各市町村が徴収する介護保険料の軽減・減免
保険料の支払いが困難な人は、申請により保険料の軽減や減免が受けられる可能性があります。例えば、収入が少なく生活が困窮していたり、災害により住宅等に大きな被害を受けた場合などが挙げられます。
対象者の要件や軽減・減免の内容については、各市町村のホームページに掲載されているので、確認してみましょう。
健康保険組合が徴収する介護保険料の免除
健康保険加入者が産前産後休業、育児休業を取得する場合、申し出により休業中の介護保険料が免除されます。
まとめ
日本に住む40歳以上の人は原則介護保険に加入し、保険料を支払う義務があります。介護保険料の金額や徴収方法は、年齢や所得、加入する公的医療保険制度、住んでいる市町村によって決まります。自分の介護保険料がどのように計算され徴収されるのか、事前に理解しておくことをおすすめします。
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